誰も気にしていないから(t)脚本版

主人公:西野千春  友達:佐藤圭

 

昼と夕方の間の頃、私は暇を持て余して5ちゃんねるを見ていた。充電器に繋がれたスマホが鳴って、私は数時間ぶりに椅子から立ち上がる。画面を見ると友人からのメッセージが何件か届いていた。「暇?」が1時間前で、「ちょっと会えない?」が1分前。私が部屋で暇を持て余している事を伝えると、「今から行くね」と返信が来た。

 

 

10分後、部屋を片付け終わって歯を磨いていたところにけいちゃんはやってきた。

部屋を片付けていたら外階段を上る足音が聞こえてきて、外を見るとけいちゃんがいる。ドアを開けるとちょうど鉢合わせになる。

千春「よ。あ、そこで靴脱いで」

圭「おけ」

千春「はい、どうぞ」

圭「おじゃまします」

千春「いらっしゃい」

圭「あれ、椅子こんなのだったっけ?」

千春「これね、この前ニトリで買ったの」

圭「へえ、座ってもいい?」

千春「うん。ていうかマック寄ってきたの?」

圭「あ、そうそう。食べていいよ」

千春「やったー」

袋を開けると中にはポテトとアップルパイが一つずつ入っていた。

千春「・・・ハンバーガーは?」

圭「無いよ」

千春「まあいいや。それで、急にどうしたの?」

圭「実はね・・・」

千春「え?何?癌?」

圭「いやいや。そうじゃなくて」

千春「じゃあ何よ」

圭「私、整形しようかなと思ってるの」

千春「なんで?」

圭「そりゃまあ、顔が嫌いだからよ」

千春「ええ~。なんで?あなたの顔、私は好きだけど」

圭「自分で好きになれたらよかったんだけどねー」

 

千春「もう整形する気満々って感じなの?」

圭「まあね。もうどこの病院にしようかとか選び始めてるところ」

千春「そっかぁ、それじゃあ、もう今のけいちゃんとは会えなくなってしまうのね」

圭「そうだね」

千春「じゃあ今のうちにツーショット撮ろうよ」

圭「スノウにしてよ」

千春「それじゃあ意味なくない?」

圭「えー。加工しないとブスすぎて死にたくなるもん」

千春「容姿に自信無さすぎじゃない?」

圭「メタ認知能力が高いだけだよ」

千春「そっか・・・」

圭「てか今日めっちゃ天気良くない?」

千春「ほんとね。せっかく朝から起きてたのに家に引きこもってて後悔した」

圭「何やってたの?」

千春「ゲーム」

圭「ゲームかぁ」

千春「そうだ。今からお散歩行こうよ」

圭「いいね。行こう」

 

圭「高校の時から自分の顔が嫌いだったんだよね」

千春「それは知ってるけど、大学入って可愛くなったじゃない」

圭「それはそうなんだけどね。コンプレックスって、そう簡単には消えないみたい」

千春「そっか」

圭「私、周りの目とか気にしちゃうタイプだし」

千春「そんなの自己暗示でどうにかなるよ」

圭「自己暗示って・・・そんなことできるの?」

千春「できるできる。見ててね」

千春はおもむろに道路に寝っ転がって空を見上げる。

圭「え?ちょっと、何やってんの?」

千春「いやー。今日は本当に良い天気だねぇ」

圭「ちょっと、まじで恥ずかしいよ、早く起きてってば」

千春「大丈夫大丈夫。誰も私の事なんか見てないから」

圭「いや、流石にみんな見てるよ」

千春「本当に?よく見てごらん」

田舎の街だから閑散としているが、周囲に二、三人ほど人はいるようだ。

圭「なんか、目を背けてるよ」

千春「ほらね」

圭「いや、やばい人だと思われてるだけだよ!」

千春「誰にも迷惑かけてないんだから、別に良くない?道路に寝たらいけないなんて法律は無いんだし」

圭「それはそうだけど・・・」

千春「ほら、一緒に寝っ転がろうよ」

圭「いや・・・」

千春「早く」

圭「えー・・・じゃあ一瞬だけね?」

千春「よしよし」

圭「うわー、恥ず・・・」

千春「あの人達はみんなNPCだから大丈夫」

圭「NPCって何・・・」

千春「ロボットって事」

圭「うーん・・・」

 

男「大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

男「あ、そうですか・・・ちなみになんでこんな場所に寝っ転がってるんですか?」

「ちょっと道路で寝っ転がりたいなと思って」

男「なるほど、それは良いですね」

「一緒に寝っ転がります?」

男「いえ、僕は遠慮しておきます」

「あ、ねえ。この子の事、可愛いと思います?」

男「え?はい。可愛いと思いますよ」

「ほら、かわいいってさ」

「そりゃ初対面の人にブスなんて言える訳無いでしょ」

男「ははは。そりゃそうだ。でもお世辞抜きで可愛いですよ」

「・・・いい人ですね」

男「どうも。あ、よかったら写真撮らせてもらえませんか?」

「えー」

「ぜひぜひ!好きなだけ撮ってください」

男「ではお言葉に甘えさせていただきます」

男「ほら、どうですか?いい感じに撮れましたよ」

「うわー、めっちゃ良いじゃん」

「写真上手ですね」

男「ありのままを切り取っただけですよ」

「なんか盛れてる気がするけど・・・」

男「そんな筈無いですよ。あ、iPhoneのカメラは周辺が歪んで不細工に映ったりするからその違いかもしれませんね」

「へぇー、初耳」

「あの、この写真送ってもらってもいいですか?」

男「もちろん。LINE教えてもらえる?」

「はい!」

「あ、きた・・・」写真を見てニヤける

男「それでは僕はもう行きますね。またどこかでお会いしましょう」

 

「良い人だったねぇ」

「うん。写真家なのかな」

「そうじゃない?なんか高そうなカメラ持ってたし」

「ねえ、ちょっとコンプレックス解消されたんじゃない?」

「まあ、ちょっとね・・・」

「整形やめちゃう?」

「やめちゃ・・・・おうかな?」

「えぇ、まじ?」

「自分の魅力に気づいてしまったかもしれない」

「せっかく私が地面に寝っ転がったのに!」

「まあ、そのおかげであの人に出会えた訳だからさ」

「確かに。じゃあ私のお陰だね」

「え?うーんまあ、そうかも」

「じゃあお金浮くし、ご飯奢ってよ。私ハンバーガー食べたい」

「え?いやそれとこれとは別じゃない?」

「ほら、早く!お店閉まっちゃうよ!」

 

私は繋いだ彼女の手を強く握り、引っ張って走る。

坂道を下ればハンバーガー屋さんはもう目の前だ。