夢の話

もう最近「好き」がなんだか分からなくなっちゃってさ。なんで子供のころってあんな簡単に人のこと好きになれてたんだろうね。夢に出てきた人を好きになったりとかね。あー、わかる。次の日から妙に気になっちゃうんだよねぇ。そうそう。最初から深層心理でその人のこと好きだったりするのかもね。なるほど、卵が先かニワトリが先か問題。

あ、そういえばこの前君が夢に出てきたよ。えっ、まじ?うん。どんな夢?俺、何してた?二人で話しながらお散歩してたの。話の内容は、趣味のこととか、友達のこととか、他愛のないこと。・・・ほう。なんか、「遠回りして帰ろうか」とか君がクサいこと言ってさ、知らない道を歩いて、気が付いたら何故か海を見渡せる丘にいたの。なんかロマンチックな気分になってた。・・・海。せっかくだから遊んでいこうかってなって、二人して膝まで海に浸かって水掛け合ったりしてさ。・・・うん。水滴が夕陽を反射してキラキラ光っててさ。夢みたいに幻想的な景色だった。まあ実際夢だったんだけど。はは。

私が「そろそろ帰ろうか」って言って砂浜に上がったら、君が私の腕をぎゅっと掴んできて、振り返ったら君はポケットから箱を取り出してさ。まさかと思ったら中から指輪を取り出して「僕と結婚してください」って言ってきて。なんでか、そこで私、「あ、これ夢だ」って気づいたんだよね。あー、明晰夢ってやつだ。

 

だから私、君のことボコボコに殴ったの。

・・・え?

そしたら君は泣きながら「やめてください助けてください」って懇願してきてさ、その顔があまりにも惨めで、面白くて、大声で笑ったら腹筋の痛みで目が覚めちゃったんだ。

 

・・・。

ところで、君のこと好きになっちゃったんだけど、私と付き合ってくれないかな?

 

 

ごめんなさい。

ジャメビュ

時間を計ってみたら30分超えてしまっていたので短めバージョンに直しました。大変申し訳ありません。。。

タイトル、ジャメヴというタイトルの映画が既にあることが発覚したので、

ジャメヴ→ジャメビュに変更。

 

 

恋「あ、おはよ。よく寝てたねー」冷蔵庫から牛乳を出して机に置く

主「え?ああ・・・」机の奥の布団で上半身を起こして目を細めている

恋「パン焼いたのあるよ。食べるでしょ?」

主「あ、うん。・・・え?うわっ!」

恋「え?」

主「え?」

沈黙

恋「どうしたの?」

主「えっと・・・誰?」

恋「私?ちなっちゃんですけど」

主「うーん・・・なんだこれ、夢?」

恋「寝ぼけてる?いいから早く食べなよ。今日お出かけするんでしょ?私もう準備しちゃったよ?」

主「お出かけ・・・すずめの戸締り」

恋「よかった、ちゃんと覚えてるじゃん」

主「・・・ん?あ~、なるほどね~」

主「朝起きたら彼女が突然知らない人になってたドッキリ・・・ってとこですかね?」

恋「はぁ?」

主「はぁ?じゃなくて、もういいですよ。もうリアクション撮れたからいいでしょ」

恋「何言ってんの?」

主「彼女役、お疲れ様でした!」

恋「役・・・?役って何?私は彼女じゃなかったって言いたいの?」

主「いやもういいですって」

恋「ねえ、そんな風に捨てるの?三年以上付き合って?信じらんない」

主「流石にダルくなってきたわ」

恋「へぇ。ヒロ君、ずっとそう思ってたんだね・・・」

主「いや、ずっとっていうか初対面だし。何この茶番」

恋「初対面って・・・。あのさ、さっきからふざけてる?」

主「いえ」

恋「じゃあ寝ぼけてる?」

主「まったく」

恋「・・・」

恋「え、まさか全部本気で言ってる?」

主「はい。いやこっちのセリフですけど」

恋「じゃあ昨日頭とか打ったりした?」

主「いえ」

恋「変なドラッグとか飲んだ?」

主「飲むわけ無いでしょ」

恋「つまり、どういうこと?」

主「だからこっちのセリフなんだよなぁ」

 

 

 

主「鈴木さん、その子が誰だか分かる?」

友「はあ?」

恋「いいから、答えてあげて」

友「誰って、君が一番よく知ってるでしょ。今春千夏、21歳、誕生日は9月25日だっけ」

主「千夏の誕生日は2月だし、まだ20歳だよ」

恋「加奈子が合ってる」

友「弘樹君さぁ・・・」

主「千夏はもっと髪長いし、服とかもっとダサかったでしょ?」

友「・・・はぁ?」眉をひそめて千夏の顔を見る

恋「実はかくかくしかじかで・・・」

五分後

友「そうだ、ツーショットとかスマホに入ってるでしょ。それ見れば?」

主「あ」

恋「その手があった」

友「おいおい・・・」

主「消えてる・・・」

恋「私は先週スマホ変えちゃったから一枚も無いや」

主「なんか怪しいな」

恋「怪しいって、壊れちゃったもんはしょうがないじゃん」

友「通話は?かけてみた?」

恋「普通に私のスマホが鳴ったよ」

主「は~~~~もう訳わっかんねぇ。俺の彼女はどこ行ったんだよ~」

恋「ここにいるんですよねぇ」

友「あ、そういえば私この前テレビで似たような話見たかも。なんだっけな、ジャメヴ?」

主「ジャメヴ?聞いたこと無いな。調べてみよ」

主「・・・なるほど。つまりデジャヴの反対で、慣れ親しんだ筈のものが初めて見るように感じてしまう現象ってことか。初めて知った」

恋「確かに、これっぽいかも」

主「なんか色々考えてたら頭痛くなってきた」

友「気分転換に一旦散歩でもしてきたら?もしかしたらだんだん思い出してくるかもしれないし」

主「部屋に知らない人残して外行きたくないんだけど」

友「私もいるから大丈夫だよ」

主「いいの?」

友「うん」

主「ありがとう。じゃあちょっと外出てくる」

 

 

 

恋「おかえり」

主「た、ただいま。あれ、鈴木さんは?」

恋「帰ったよ。私たちの代わりにすずめの戸締り観に行った」

主「あっそうだ忘れてた」

恋「いいよ、また今度行こうね」

主「・・・」

恋「弘樹、私のチャーハン好きだったでしょ?」

主「君ではないけど、せっかくだしいただきます」

主「おいしい」

恋「そう?よかった」

恋「それで、何か思い出せた?」

主「・・・ごめん」

恋「いや、大丈夫。ねえ、ところで弘樹、私と別れるとか言わないよね?」

主「言わないけど、しばらくの間一人にしてほしい」

恋「ふうん、わかった」

主「おいしかった。ごちそうさまでした」

恋「よかった」

主(チャーハンは確かに美味しかったけど、でもやっぱり初めて食べる味がした。)

ジャメヴ台本(配役の関係で男女逆転)

主人公 弘樹

恋人 千夏

友達 加奈子

書き始めた時に登場人物の名前が未定だった為表記が恋と主と友になっています。

 

主(あれ、なんで?)

恋「あ、おはよ。よく寝たねぇ」冷蔵庫から牛乳を出して机に置く

主「え?ああ・・・」机の奥の布団で上半身を起こして目を細めている

恋「ちょうどパン焼けたけど食べる?」

主「あ、え?いや・・・え?」

恋「え?」

主「え?」

恋「え?」

主「え?」

恋「何?寝ぼけてる?」

主「うーん・・・?」

恋「まあいいから早く食べなよ。今日お出かけするんでしょ?」

主「・・・」訝しげにパンの匂いを嗅ぐ

恋「何やってんの?w冷めちゃうよ?」

主「あ、はい。いただきます」

恋「いただきます」

主「・・・」食べたのを確認してから食べ始める

恋「大丈夫?具合悪い?」

主「いえ・・・あの、ちょっといいですか?」

恋「何?えっ怖いんだけど」

主「どちら様でしょうか?」

恋「え?」

主「いや、『え?』じゃなくて、初対面ですよね?ここ僕の部屋なんですけど」

恋「ふざけてるの?」

主「ふざけてません」

恋「じゃあ寝ぼけてる?」

主「寝ぼけてもいないと思います」

恋「じゃあ何なの?ふざけてもいないし寝ぼけてもいないなら何?嫌がらせ?」

主「・・・」

主(一体何が起こっているのだろう。もしかして本当に僕がおかしくなってしまったんだろうか)

恋「ふざけてる・・・?いや弘樹はこんな冗談言わないよね。ってことは病気か」ブツブツ (わりと迫真な感じで)

主「あの、なんで僕の名前」

恋「本気で私が誰か分からない?」

主「不法侵入者・・・?」

恋「うわー」

主「警察呼んだ方がいいのかな・・・」

恋「これは重症だなあ。・・・ねえ弘樹、今日は病院行こうか」

主「いえ結構です。とりあえず帰って貰っていいですか?」

恋「・・・(´Д⊂グスン」

主「ご、ごめん」

恋「大丈夫、こっちこそごめんね」

主(本当にどうしよう、悪い人じゃないっぽいんだけどなぁ)

恋「私、島田千夏っていうの。あなたの恋人です。よろしくね」

主「は?」

恋「?」

主人公、ハッとする。

主「お前、ふざけんなよ。もしかして千夏になんかしたのか?」

恋「だから千夏は私だって」

主「」スマホで通話をかける

恋「」テーブルに置かれてるスマホが鳴る

主「それ、千夏の・・・」

恋「うん、私の」

主「違う」

恋「違くないよ。ねえ弘樹、もしかして昨日頭でも打った?」

主「・・・もしそうだとして、本当にあなたが千夏なら二人にしか分からないこと言ってみてくださいよ」

恋「え~、なんだろう。記念日にもらったプレゼントとか?」

主「何?」

恋「香水。金木犀のやつ」

主「そんなのあげたことないし、千夏は香水好きじゃなかった筈」

恋「じゃあ、馴れ初めとか?」

主「いいね。どうぞ」

恋「最初の対面授業で同じ班になって、ジョジョの話で盛り上がってさ、それで仲良くなったんだよね」

主「全然違う。同じ班とかなったことないし。あとジョジョも見たことない。動物がひどい目に遭う作品全般無理だし」

恋「じゃあ私との思い出、全部忘れちゃったってこと?」

主「あなたとの思い出は特にありませんから」

恋「・・・」

主「・・・らちが明かない。共通の知人誰か分かる?」

恋「加奈子とか?あと男なら純一君とか」

主「それは分かるんだ。まあ見てたら分かるもんな」

恋「今から呼ぼうか」

主「うん。LINE送った」

 

待っている間、すすり泣く千夏。

十分後

 

主「鈴木さん、その子が誰だか分かる?」

友「はあ?」

恋「いいから、答えてあげて」

友「誰って、君が一番よく知ってるでしょ。橘千夏、21歳、誕生日は9月25日」

主「千夏の誕生日は2月だし、まだ20歳だよ」

恋「加奈子が合ってる」

友「弘樹君さぁ・・・」

主「千夏は金髪に染めてたし、身長ももうちょっと小さいでしょ」

友「・・・?」眉をひそめて千夏の顔を見る

恋「実はかくかくしかじかで・・・」

五分後

友「そうだ、ツーショットとかスマホに入ってるでしょ。それ見れば?」

主「あ」

恋「その手があった」

友「おいおい・・・」

主「消えてる・・・」

恋「私は先週スマホ変えちゃったから一枚も無いや」

主「なんか怪しいな」

恋「怪しいって、弘樹が踏んで壊したんじゃん。まあ床に置いといた私も悪かったけど」

主「は~~~一体何がどうなってんだ」

友「あ、そういえば私この前テレビで似たような話見たかも。なんだっけな、ジャメヴ?」

主「ジャメヴ?聞いたこと無いな。調べてみよ」

主「・・・なるほど。つまりデジャヴの反対で、慣れ親しんだ筈のものが初めて見るように感じてしまう現象ってことだね。初めて知った」

恋「これっぽいけど、違うような気もする」

主「これなのかなぁ。むしろ別の世界に来ちゃったみたいな感じがするけど」

主「頭痛くなってきた」

友「一旦散歩でもしてきたら?だんだん思い出してくるかもしれないし」

主「そうだね。じゃあちょっと外出てくる」

 

 

主「見慣れた道路、見慣れた家、見慣れた空・・・」

主「見慣れないのは彼女の顔だけか」

主(ジャメヴかぁ。そういえば千夏、デジャヴは別世界線の自分の記憶だとかなんとか言ってたことあったなぁ)

主「そんなアニメみたいなことあり得ないよな~。やっぱ俺おかしくなっちゃったのかな」

主(もしそうだとしたら、俺の彼女はどこへ行ってしまったんだろう)

主「ああああああああああ」

 

 

八王子駅

主「見慣れた駅・・・」

謎の女性「ブツブツ」

主(なんかぶつぶつ言ってる人いる・・・)

謎「私は誰?ここはどこ?私の恋人は?」

主(汚いジャンパー・・・)

突如、ジャンパーにものすごい既視感を覚える

主「!?」(なんだろう、今の感覚)

主「ち、千夏!」

謎の女性「ちなつ・・・・?誰だっけ、聞いたことあるような」ブツブツ

主「・・・何言ってんだろうな、俺。帰ろう」

 

恋「弘樹、私のチャーハン好きだったでしょ?」

主「ありがとう。いただきます」

主「おいしい」

恋「そう?よかった」

恋「何か思い出せた?」

主「・・・ごめん」

恋「いや、大丈夫。ねえ、ところで弘樹、私と別れるとか言わないよね?」

主「言わないよ」

恋「ふーん」

主「おいしかった。ごちそうさまでした」

恋「よかった」

主(チャーハンは確かに美味しかったけど、でもやっぱり初めて食べる味がした。)

パンツが無くなる理由

靴下って片方だけ無くなるよね~と言うと共感を得られるが、「あとパンツも何故か知らないうちに減ってくよね」と言うと怪訝な顔をされるのは何故なのだろうか。確かに、パンツは靴下より大きい分、見失ったとしてもすぐに見つかる可能性は高い。だがしかし、無くなるものは無くなるのだ。原理は分からない。現実的に考えれば「部屋が汚すぎて脱ぎ捨てたパンツが行方不明になっている」といったところであろう。しかし、それにしても無くなるペースがあまりにも早すぎて、本当は誰かに盗まれているんじゃないかとか時々考えてしまう。ある日、友人が「そんなに言うんならクローゼットに隠れてパンツを監視しようぜ。もし本当にパンツが消えたら5万円やるよ」と言ったので、俺は友人を部屋に招き、二人してクローゼットに入り込んだ。5分が経過した。何も起こらない。パンツが入っている引き出しに異変は無い。10分が経過した。息を潜めている事には慣れたが、集中力が切れてきた。もうあと10分して何も起こらなければ出よう。そう思った矢先、突如玄関をノックする音が聞こえた。その十数秒後、「ガチャリ」という音がしてドアが開いた。俺は暗闇の中で友人と目を見合わせた。まさかこんなことになるなんて・・・。おじさんは、こっそり、という様子でもなく、スタスタと部屋まで歩いてきて、迷うことなくタンスの下着が入った引き出しを開けて中にあった俺のランジェリーをポケットに突っ込んだ。

ここから友人視点に切り替わり

おじさんが部屋を出て行ったあと、俺たちはクローゼットからそっと忍び出た。「ほらな?言っただろ?」「いやまじでパンツ盗られてたな。まさか本当にこんなことがあるとは・・・」「くっそ~、あの変態じじい。許せねぇ」「警察呼んだほうがよくね?」「いや、それはちょっと・・・」「・・・?呼んだほうがいいだろ?にしてもクローゼットあちいな、喉乾いた。なんか無い?」「あー、なんもないな。とりあえず買いに行くか。途中であの変態が見つかるかもしれんし」「おっし、行こう」俺たちは二人でスーパーへの道のりを歩きだした。道中、友達は「あ、ちょい、靴紐直すわ」と言ってしゃがみこんだ。その時俺はある光景を目の当たりにし、すべてを察した。

ジャメヴ(T)

ある朝、彼氏が知らない人になっていた。彼氏に向かって、あなたは誰?と尋ねると、何言ってんだこいつ?とでも言いたげな顔をして冷蔵庫を漁り始めた。その男は図々しくも私が買った麦茶を一気に飲みほすと、俺、弘樹ってんだ。よろしくな。と言ってへらへらと笑った。弘樹は確かに私の彼氏の名前だが、この男では無い。そもそも、顔も体型も声も何から何まで全部違うのだ。間違いない。不審者だ。一先ず本物の彼氏である弘樹に電話をかけることにした。通話をかけると、目の前の不審者のスマホが鳴った。何?記憶喪失ごっこ?男は今度は、私が買ったナイススティックを食べながら私の部屋のテレビでニュースを見始めた。本物の弘樹は菓子パンなんか食べないし、ニュースを見るような立派な人間ではなかった筈。やっぱり、私の頭がおかしくなったという訳では無さそうだ。弘樹と私の共通の友人の美咲を部屋に呼んだ。美咲は男を弘樹君と呼び親しげに話している。ねえ、美咲、その男って私の彼氏じゃないよね?美咲はキョトンとした顔で私を見つめ、え?別れたってこと?それは初耳だけど。と言った。そうじゃなくて、私の彼氏の弘樹はもっと短髪で、いつもメガネかけてたでしょ。そう言うと、美咲はいや、私の知ってる限りでは弘樹はずっとこんな感じだったけど・・・。と困惑した表情で呟いた。私が美咲と話している間、弘樹は真剣な顔をしてスマホを見つめていた。少しして弘樹は、なんかこれっぽいな。と言ってスマホの画面を私たちに見せた。そこには“ジャメヴ”という文字が書かれていた。ジャメヴとはデジャヴの反対で、見慣れている筈のものや人を初めて見たかのように錯覚してしまう現象らしい。どうしても納得はいかなかったが、ひとまず今日のところはジャメヴという事にして、一旦二人には家に帰ってもらった。考えて考えて考えた末に、スマホで過去に撮ったツーショットを見返すという方法を思いついた。あまりにも気づくのが遅すぎた。もしかしたら本当に私の頭の方がおかしくなってしまっているのかもしれない。写真のフォルダを開くと、弘樹の写真は全て消えていた。弘樹と一緒に行った水族館で撮ったイルカの写真はあるのに、カニとカメの顔出しパネルで二人で撮った写真は消えている。世界がおかしくなったのか、自分がおかしくなったのか、こういう場合は大抵自分がおかしくなっているというのが現実なのだろう。とは言え、そう簡単には信じられず、私は思考を整理するべく外に出て歩くことにした。見慣れた街、見覚えのある人、見慣れた空・・・。駅前を歩いている時、ベンチに座って俯き、俺は誰だ?ここはどこだ?とぶつぶつ呟いている男性を見かけた。その男は初めて見る筈なのに、何故かとてつもない“懐かしさ”をおぼえた。一瞬話しかけようと思ったけれど、知らない人にいきなり話しかける勇気も無くて、スルーして家に帰ることにした。帰ったら弘樹を名乗る知らない男が部屋に居て、ほら、お前俺のチャーハン好きだっただろ?と言ってチャーハンを作ってくれた。チャーハンは確かに美味しかったけど、でもやっぱり初めて食べる味がした。

大人になる(T)

不自然なほど静かな部屋で、私はスリープ状態のスマホの画面を眺めていた。時間が経つにつれて、頭の両側を誰かに強く押されていくような鈍い痛みがどんどん強くなっていく。早まっていく鼓動を抑えようとして大きく息を吸い込み、手のひらの付け根で胸の上のあたりを擦った。日付が変わって10分が過ぎても私のスマホはうんともすんとも言わない。20歳になって最初に分かった事は、私には親友と呼べるほどの友達は一人もいないという事だった。今年私が誕生日を祝ってあげた人は何人いるだろう。一人一人の顔と渡したプレゼントを思い出しながら、指を折って数えてみる。「あかり、サボンのスクラブ。千春は・・・ピエールエルメのマカロン。結衣・・・お酒。のどかは・・・なんだっけ」薬指を折った所で数えるのをやめて、両腕をぐったりと脇に下ろした。「ああ、もういいや。・・・もう、どうでもいい」。はぁ、と大きなため息をついて私は立ち上がり、冷蔵庫に入っていたショートケーキを取り出した。お皿に乗せ換えロウソクを立てたところで、あ。と気が付く。そういえば、私の家にはライターもマッチも無いんだった。台所にケーキを持って行って、ロウソクを抜いてコンロで火をつける。部屋の電気を消してテーブルに向かおうとしたら、私はコードに足を引っかけて転びそうになってしまった。慣性の法則によりケーキはお皿を離れ、ぼとりと床に落ちて崩れた。私はしばらくの間、目を閉じてきつく歯を食いしばり、ただ泣かないように耐えることしかできなかった。

翌朝、スマホを開くと母からLINEが届いていた。「誕生日おめでとう!ところで、コロナのワクチンは、危険なので、絶対に接種しては、いけません!DNAが、書き換えられて、別の人に、なってしまうとの、ことです。絶対に、接種しては、いけません!人間には、自然治癒能力が、備わっています!」私はスマホを潰れるほど強く握りしめ、「ふざけんな!」と叫びながら思いっ切り布団に叩きつけた。母が私の事を心配して言ってくれたんだという事は分かっていたけれど、でも、どうしようもなかった。特別な日には何か特別な事が起こるんじゃないかって心のどこかで思ってしまっていたけど、そういう根拠のない子どもじみた感覚は捨てる時なのかもしれない。成人して大人になるというのは、まあつまり、そういう事なんだろうな。

コーヒーを飲みながら部屋で読書をしていたら、気づいた時には外は少し暗くなっていた。本を読み終えてテーブルに置くと、それまでどこかに隠れていた不安や孤独感が急に姿を現し始めた。私はそれらから逃げる為に急いで部屋を飛び出し、青信号の点滅する横断歩道を渡るような速さで最寄り駅へ向かった。人気アニメのラッピングをした風情のかけらも無い電車がのんきに走ってきて、私はベンチから立ち上がる。いつもならなるべく人の少ない車両に移動するけど、今日はそうしなかった。都留の山の緑で彩られた鮮やかな車窓を、無感情のままに見つめる。ずっと同じような景色が流れていく。山、家、畑、川、道路、山・・・。この電車に乗るといつも、同じところをぐるぐると回り続けているような錯覚に陥る。もっと東京が近かったらよかったのにな。それか、もっと電車が早く走ってくれればいいのに。

そんな私の願いを嘲るように、電車は二分遅れで大月に到着した。

大月と高尾で乗り換えをし、八王子で降りた。帰宅を始めた人々で混みあってはいるけれど、前に来た時よりも人は少ない気がする。そういえば今って、緊急事態宣言が出ているんだっけ。

駅の周辺をぶらぶら歩く。道の端で立ち止まってスマホを見ているおじさんに話しかけて「実は私、今日誕生日なんですよ」と言ったらどんな反応をされるだろう。怪訝な顔をしながらも「おめでとう」くらいは言ってくれるだろうか。妄想をしただけで心臓がバクバクして、急激に体温が上昇するのを感じた。私は心の中を整理する為に立ち止まってフェンスに寄りかかり、スマホを見るふりして地面を見つめた。話しかけるにしても、まずどうやって声をかければ良いのだろう。舌で頬の内側を押しながら適切な言葉を探してみるけど、いいセリフは何も浮かんでこなかった。歩き続けて、私は街のはずれの方まで来てしまったようだった。人通りのそれほど多くない静かな道で、二十代半ばくらいの男が私を後ろから追い越し、声をかけてきた。「お姉さん、今って暇してます?」失礼な男だ。私は立ち止まらずに返事をする。「そうですけど、だったら何ですか」私がそう言うと、男はヘラヘラしながら「メシ、行きません?奢りますよ」と言ってきたので、私は「是非、お願いします」と答えた。「え?」「ご飯、奢ってくれるんですよね?」彼はキョトンとしている。「も、勿論勿論!何が食べたいっすか?」「なんでもいいですよ。サイゼでもはなまるうどんでも」「どうしよう。そうだな・・・じゃあ、カラオケでも行きましょうか。お姉さん、なんか鬱憤溜まってそうだし」「カラオケ・・・いいですね。お酒も飲めるし」「決まりっすね。行きましょう!」

人生で初めてされたナンパは、涙が出そうになるほど嬉しかった。

私たちは結局朝まで飲んで、フラフラになりながら店を出た。「ねえ、八王子って何があるの?」という私の問いに、彼は「あっちの方はちょっと大人向けのお店がありますよ」と答える。「へー。八王子ってなんでもあるんだね」「そりゃ、大都会八王子ですから。・・・あ、ちょっと待っててください」と言って、彼は私を置いてコンビニに入っていった。ああ、なるほど、そっか。20歳になってすぐお酒を飲んで、そしたらお次はセックスか。なんて分かりやすい成人の儀式なんだろう。まるでどこかの部族みたいだな。なんてぼんやり考えていると、ナンパ男がコンビニから出てきた。「何買ったの?」私が訊ねると、彼は「内緒っす」と答えた。

私と彼は、早朝の八王子を、何も言わず、ただゆっくりと歩いた。急に、ナンパ師は何もないところで、「この辺でいいかな」と言って、よっこいしょ、と腰を下ろした。「え・・・ここ??」私がびっくりしていると、「あ、ほら。ケーキ買ったから、一緒に食べません?」と彼は言う。「うわー、ごめん。めっちゃ勘違いしてた」と私は言って、その直後に激しく後悔した。はじめ、彼は「と言うと・・・・?」と、意味を理解していない様子だったが、すぐに「あっ、なるほど」と言ってにやりと笑った。彼が私の勘違いを見抜いた事を悟って、私は「大人になれると思ってちょっと期待したのになぁ」と強がって見せた。すると彼は「セックスしたくらいじゃ大人になんかなれませんよ」と優しく、教え子に諭すような口調で言った。「じゃあどうしたら大人になれるの?」「わかんないですけど、・・・多分、周りの人に大人だと思われる人、大人として扱われる人が大人なんじゃないっすか?」私の問いに、彼はケーキの容器を開けながら答えた。「ナンパ師さん・・・言う事が大人だね。ナンパ師なのに」「僕なんかまだ子どもっすよ。路上でコンビニのケーキ食おうとしてるし」「ってことは、私の事も子ども扱いしてるって事?」「まあ、そうっすね」私はナンパ師を殴った。ちょっと強く殴りすぎたかもしれない。「痛いっす。・・・あ、この辺良さげですね」私とナンパ師は段差に腰を下ろしてケーキを食べた。「うま・・・コンビニのケーキってこんなに美味しかったっけ」「コンビニも案外やるでしょ?」「うん。やるね」

早朝に路上でケーキを食べる二人の若者。通行人の目にはどう映っているのだろう。非常識な頭の悪いカップルだと思われているだろうか。私が今していることは、後になって思い返したら恥ずかしい事なのかもしれない。けど、今この時、謎のナンパ師の男と八王子の地べたで食べるケーキの味を味わうことの大切さに比べたら、何もかもがどうでもいいと思えた。あまりにも穏やかで温かみのある時間が、ぼんやりとした慈しみを持って、私たちの間をゆっくりと流れていった。

「ところで、なんか欲しいものとかあるんすか?」ナンパ師の不意な質問に、私は間髪入れずに「親友」と答えた。「親友、いないんですか?一人くらいいるでしょう」勝手に決めつけないで欲しい。「いると思ってたんだけど、誰も誕生日におめでとうって言ってくれなくてさ。それって親友って言えるのかなって」「じゃあ、誕生日におめでとうって言ってくれる人が親友なんですか?」随分と雑な二段論法だ、と思った。でも一応間違いではないので、私は「多分」と、中途半端に肯定した。すると彼は「なるほど。じゃあ、一年後に親友になりましょう」と言ってきた。「は?」「来年の昨日、また八王子に来てください。大きな花束持って待ってますから」「え?それ、本気で言ってる?」「もちろん。本気です」得意げな顔をするナンパ師を見て、私は笑いそうになってしまった。親友になりましょうって、それがナンパ師の言う事なのか。「ナンパ師さんって、本当にナンパ師?ヤブナンパ師でしょ」「八王子のナンパ師はマイルドなんですよ。ナンパにも地域差がありますからね」「八王子市民は優しいってこと?」「ええ。まあ、東京の中では断トツで優しいですね」「なんで?」私が訊くと、彼は困惑の表情を浮かべて「え~なんでって・・・」と言葉に詰まっていたが、やがて遠い目をしながら「自然が豊かで、街自体が穏やかですから、穏やかな人が多いんですよ。多分ですけど。」と言った。「適当な事言うなよ」と言って私が殴ると、彼は「痛いっす」と言いながら走って逃げた。

 

始発前の八王子駅には人がまばらにいたけれど、話をしているのは広い駅舎の中で私たちだけだった。どの人も早足に歩き、水に湿った靴底はキュッキュという女児用のサンダルのような音を鳴らしていた。「あ、そろそろ始発出るかな。それじゃ、お見送り、ありがとうね」「いえいえ、とんでもないです」「また一年後。絶対来るから、花束持って待っててよ」「任せてください」彼はお腹の前で拳を握り、親指を立てた。陽気な女子高生とかがよくやるやつだ。と思ったけどそれは敢えて口には出さず、彼に合わせて私も親指を立てた。「それで、私がちゃんと大人になってたら、今度こそ大人扱いしてよ?」と、私は言って笑った。「そうですね。そしたら、ちょっとハイソなバーにでも連れていきますよ」「やった」「じゃあ、一年後の、〇月〇日にまた八王子で」「いや、昨日だから〇日だよ」「〇日!場所は改札?それともあの・・・」「あの最初に会った道路にしよ。自販機のところ」「了解。時間はどうしましょう」「7時くらいだったかな」「そうですね。じゃあ、19時で」「わかった!それじゃあ」「はい。気をつけて帰ってくださいね」「ありがとう」

 

彼に手を振って別れ、始発電車に乗り込んだ。LINEを開いて母に「心配してくれてありがとう。気をつけるね」と返信し、窓の外の景色を撮って母に送る。少しして、「綺麗な、景色!」と短い返信がきた。母の相変わらずの句点の下手さが、この時は何故か愛しく思えた。私は外の景色をしばらくの間見つめて、それから「綺麗でしょ」と打って母に送った。目を閉じると昨日から今日にかけての出来事が自然と思い出され、私は彼の言っていた事のいくつかをスマホのメモ帳に書き出した。一年後の昨日までに、素敵な大人の女性になろう。それだけを考えながら、私は緑色の車窓を眺め続けていた。

シコれエロス

エロスはフル勃起した。必ず、かの超絶淫乱ドスケベ・ザ・エッチ・セックスとパコらねばならぬと決意した。エロスには恋愛が分からぬ。エロスは、都留文科大学の学生である。サークルには入らず、友達も作らずに暮らしてきた。けれどもエロに対しては人一倍敏感であった。ある日エロスがTinderで無限右スワイプをしていると、一人の女とマッチした。写真を見てエロスはフル勃起した。その女は低身長ロリ巨乳デカ尻美女、超絶淫乱ドスケベ・ザ・エッチ・セックスであった。「ホ別5万払うのでエッチしてください!」「いいですよ」「ありがとうございます!」こうしてエロスは童貞卒業の確約を得た。翌日、エロスは薬局でサガミオリジナルを買い、待ち合わせ場所へと向かった。待ち合わせ場所の公園でエロスがそわそわしていると、一人の女が歩いてきた。「あの、エロスさんですか?私ドスケベ・ザ・エッチ・セックスです」「え?」エロスは困惑した。何故なら写真で見たドスケベ・ザ・エッチ・セックスと今目の前にいる女とはあまりにも風貌がかけ離れていたからだ。低身長ではあるがロリでも巨乳でもデカ尻でも美女でもない。しかしエロスはつい「あ、そうです」と答えてしまった。エロスは嘘をつくのが苦手だった。エロスは葛藤した。こんなブスで童貞を卒業していいのだろうか。否、良い訳が無い。隙を見て逃げよう。「ちょっとホテル行く前にコンビニでも行きません?」「まあ、いいですよ」すると、女はエロスの腕に自分の腕を絡ませてきた。不味い。なるべく時間を稼いで隙を見つけよう。という魂胆に気づかれてしまったのだろうか。これでは逃げるのが困難になってしまった。ちくしょう・・・・そう思いながら、エロスはフル勃起していた。エロスは女をブスだと思っていたが、腕に当たるおっぱいの感触は本物だった。エロスは、また葛藤した。このままホテル行ってパコるのもアリかもな。と考え始めていた。ホテルの前まで来た時、エロスは言った。「あ!ボルメテウス・ホワイト・ドラゴンがいる!」「え?」女が空を見上げた隙に、エロスは全力で駆けだした。「おい!!!!」後ろで女の叫び声が聞こえてエロスの心臓は跳ね上がった。「待てよてめぇ!!!!」女はエロスの5mほど後ろを追走してくる。エロスは運動が苦手であったが、足だけは何故かそこそこ速かった。エロスはひたすら走り続けた。一時間近く走り続け、エロスはようやく走る事をやめた。注意深く周りを見渡すが、それらしき人影は無い。エロスは安堵し、家に帰る事にした。エロスは家に着いて即シコろうとした。昼間の胸の感触を忘れない内にシコりたかったからだ。しかし、案外抜けなかったので、ブックマークしてあるXvideosの動画で抜いた。

 

おわり