騒音アパートメントB案

つい先週だった。生まれて初めて、本気で人を殺したいと思ったのは。

ジャカジャカジャンジャカジャカジャンジャカジャン

「ああああああ!!!!!!!!うるせえええええええええ!!!!!」

大学生になり一人暮らしを始めた僕は、大学の近くにある安アパートを借りた。運の悪い事に右隣の部屋の住民がギターを弾く為毎晩うるさくて眠れず、睡眠不足になってしまっている。何度大家さんに苦情を言っても一向に改善されない。もういっそぶち殺してしまおうか。そうだ。もう殺すしかない。僕はそう思って包丁を手に取った。玄関を出て隣の部屋のドアを叩く「おい!出てこいクソ野郎!」しかし、何分待っても隣人は出てこない。僕は少し冷静になり、一旦部屋に戻った。すると今度は上の部屋からベースの音が聞こえてきた。「はぁあああ??????」どうやら右隣の部屋から聞こえるギターに合わせて演奏しているらしい。2ピースバンドになってしまった。仕方がないから上の階の奴から殺そうか、と思ってドアを叩きに行ったが、やはり出てこない。部屋に戻ると今度は3ピースバンドになっていた。下の階の住人がドラムを叩き始めたのだ。上と下と横と、いろんな方向から音がしてきて本当にうるさい。俺は一体どうすればいいんだろう。僕はもう何もかも諦め、その日は眠る事にした。さらに翌日、左隣までもがキーボードを弾き始め、バンドは4ピースになった。「うるせええええええええええ!!!!!!!」僕は叫んで壁や床や天井を全力で殴った。しかし演奏は止まらない。仕方が無いから僕も歌うことにした。このイントロは・・・『TWIST&SHOUT』か。こいつら、どうやらビートルズが好きらしい。僕が叫ぶ。「Well,shake it up, baby, now!」右左上下から「shake it up, baby♪」とレスポンスが返ってきた。「Twist and shout!」「Twist and shout♪」歌っていたら段々楽しくなってきた。僕は夢中になって歌った。翌日もまた演奏が始まった。よし、今日も俺がボーカルで参加してやろう。そう思っていたが、何かがおかしい。「あれ・・・?この曲、インストゥルメンタルじゃね?」何曲か続いて、僕はようやく気付いた。そうか、こいつらは僕に参加させない為に敢えて歌の無い曲を選んでいるんだ。

僕は台所の引き出しを開き、一番長い包丁を選んで手に取った。